国木田独歩の作品「欺かざるの記」の「明治27(1894)年8月17日」に、次の記述がある。これは、岸ノ下(柳井港)から琴石山麓にかけて弟収二と散歩した生活の記録である。
昨夜、岸の下に盆踊りありて、夜更けまで、村女達のはねくり廻るを見物したり。朝、忽ちにして午後、而して夜。此頃の一日は矢の如く空過す。 昨日午後一時少し前、収二と共に琴石山麓の山家點在せる邊りを散歩す。渓流に沿うて山路を辿り、松林に入りて山腹を横ぎる。サコンタを止めて水に浴し、路傍に沿うて棗を盗む。山寺に入りて僧の眠りを驚かし、犬に吠えられて笑って石を投げつく。田をめぐり、森を望み、遥かに海水の漂渺たるを眺めなどして、盛夏日中思うまゝ吾が愛する夏を樂しみたり。 ~国木田独歩「欺かざるの記」より~ |